相 生山のヒメボタルと道路建設問題がニューズウィークに掲載
去年、ヒメボタルを見に相生山へ来た、オーストラリア人の作家、リアン・ハーンさんのエッセイがオーストラリア版の ニューズウィークの夏季特集号に掲載されました。「相生山の自然を守る会」のホームページのために書いて下さったエッセイに加筆したものです。
リアンさんはヒメボタルの美しさに心を奪われると同時に、道路工事が始まっている現実に大きなショックを受けました。そのことをエッセイに書いています。
ニューズウィークの編集者もヒメボタルの写真の美しさに驚いていたそうです。
リアン・ハーンさんは、日本の中世を舞台にしたファンタジー「鳳伝記」を書いて、それは世界30ヶ国以上で出版されて、ベストセラーになっている方です。 ハリウッドでの映画化も決まっています。
外国に相生山の問題が発信されたのですが、「環境都市」を宣言している名古屋市で、このように自然を破壊して道路建設が行われていることは、何と言う矛盾 でしょうか。世界にそれが発信されたことを、市長はどのように考えるのでしょうか。まだ、工事を中止することが出来ます。市長の勇気ある決断を期待したい ものです。


オー ストラリアの作家、リアン・ハーンさんのエッセイ
ほとんど 漆黒の闇だった。5月29日月曜日。月のない夜であった。空は街の灯りを映していた。街のすぐそばでありながら、そこは百万マイルも街から離れているよう であった。まるで遠い世界からのメッセージのように時折、サイレンの響きが聞こえた。ここ、森では物音ひとつせず、風のそよぎもなく、夜の鳥たちもいな かった。私たちの足音さえ吸いこまれていくようだった。FさんとKさんの後に続いて歩いていても、私には何も見えなかった。時々、二人は立ち止まり、鈍い 明かりの元で温度と湿度を量り、Fさんは写真を撮り、ホタルの数をカウントしていた。

名古屋市郊外の相生山緑地にとうとう私はやってきたのだ。2,3年前、徳林寺周辺の森を散策したとき、誰もがホタルのことを私に語り、「今度はホタルを見 に来てください」と言うのだった。「いつかきっと」と約束したのだが、5月の終わりの今、私はここにいて、ヒメボタルもここにいるのであった。これは友人 たち、そして自分自身と交わした約束を守る巡礼の旅であった。私の期待は十分に応えられた。いや、それ以上だった。ヒメボタルは私が思ったとおりのもので あった。

FさんとKさんはこの緑地をよく知っているのだが、私には初めての場所であって、訪れる場所の名前も地理的な関係も分からなかった。しかし、記憶に留めて おきたくて、私はそれぞれの場所に名前をつけた。最初に着いたのは「深い森」。あたりは真の暗闇で、沢山のホタルをそこで見た。暗ければ暗いほど、ホタル は強く光り、光は大きくなるようであった。今までホタルの写真を数多く見たし、それ自身、すばらしいものであったが、この乱舞する小さな光の美しさには比 べ物にはならなかった。完全な静寂の中、ヒメボタルの光はそれぞれのリズムで規則的に点滅していた。魅入られて私たちは長い間、そこに立ち尽くしていた。 他には誰もいなかった。

私が「梅の木の下」と名前をつけた場所は全く違っていた。ここではホタル見物が社交の場にもなっていた。地元の人々が大勢、散歩をしていて、犬をつれてい る人々もいた。人々は立ち止まり、おしゃべりをし、去年のホタルと今年のホタルの比較をしたりしていた。私たちは地面に座った。梅の木の下枝の元にいるホ タルは低い視点から見る方がよく見えた。

すぐそばに「水のない池」があった。以前は水で満たされていた池だが、今は干上がっている。「また水を湛えた池にしたい」と考えている人々もいるというこ とだった。家が並んでいる道を私たちはできる限りそっと抜けて戻った。もう、人々が眠りにつく時間になっていた。次に「階段のある深い森」と名づけた場所 に入り、次の果樹園に着いた。そこは写真家たちの撮影スポットのようであった。人々が大勢、腰をおろしたり、地面に座りこんだりしていた。ヒメボタルの光 は小さく思えたが、やはり私を魅了した。ここでも温度と湿度を測り、ホタルの数をカウントし、「竹林」を抜け、「ステージ」と「相生山の自然を守る会」の 人々が呼んでいる場所に着いた。そこは例年、ヒメボタルがもっとも遅く出る場所だということだったが、そこにもヒメボタルはいた。そこから少し離れた場所 を私は「天蓋のある暗闇の森」と名前をつけた。霧が山を覆い始めたいた。そのせいで、木の枝で出来た天蓋の下にいるように思えたのだ。枝は頭上で曲線を描 き、まるで私たちと下の方で光を放っているヒメボタルを守っているようであった。もう2時を過ぎようとしていた。眠りにつく時間であった。ヒメボタルが静 かに森の中で光り続けているのを感じながら、私たちは徳林寺で眠った。

森の香り、静寂、闇、そして小さな生き物の奇跡のような光が忘れられない。ヒメボタルは人間の存在などを意識していない。しかし、人間は彼らの生息地を奪 おうとしていて、それゆえに彼らの生存は脅かされている。「深い森」を歩いているとき、「ここに道路が建設されるのです」とFさんが言った。「ちょうど、 ここです」と。すでに建設は着手されているのだという。ホタルを見た喜びが強い悲しみに変った。私はもう一度、相生山でヒメボタルを会うことができるのだ ろうかノノ..。

これは先 ほど、相生山緑地を訪れ、ヒメボタルを見たオーストラリアの作家、リアン・ハーンさんのエッセイです。この美しい緑地に道路が出来ることを悲しんで、エッ セイをお寄せになりました。
リアン・ハーンさんの作品は先ごろ「魔物の闇」というタイトルで日本でも出版されましたが、日本の封建時代を舞台にした若者の冒険と成長と恋の物語で、世 界30ヶ国で出版。ハリウッドでの映画かも決まっている世界的ベスト・セラーです。

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