道路事業変更の縦覧に対して守る会が提出した意見書

名古屋市計画道路の変更「3・5・79弥富相生山線」に関する意見書

2003年12月18日
住宅都市局都市計画部街路計画課                                 
名古屋市長殿   
相生山の自然を守る会
                                     代表 近藤国夫
名古屋市天白区天白町野並相生28-341(野田方)
                                     090−6337−1095
            
                                  
名古屋市計画道路の変更「3・5・79弥富相生山線」に関する意見書

 「変更理由書:(1)都市の将来像における位置づけ及び都市計画の必要性」を「3・5・79弥富相生山線は大規模な緑地(相生山緑地)に挟まれていることから」としているが、この計画道路は、約130haある都市に残された相生山緑地のほぼ中央を横切って緑地を分断するものであって、「挟まれている」のではない。このような記述は、この道路計画が抱える自然・緑地への影響や問題、生活環境に及ぼす影響や問題の重要性を隠蔽するものであり、名古屋市の自然・緑地に対する公益性への認識、環境問題の認識を疑わざるを得ない。
 私たち相生山の自然を守る会は、いままで「いかに緑地の保全をするか」、「道路の必要性」について市に明確な根拠を求めてきたが、その根拠は示されないままである。今回の変更理由においても、「自然に配慮した道づくり」の自然・緑地への影響、生活環境に及ぼす影響がなんら示されておらず、検証もされていない。名古屋市は、「公共事業の公益性」を示さないまま、市民合意のないまま、なぜ建設を急ごうとするのか。

私たち相生山の自然を守る会は、名古屋市に行政の責任として、次のことを求める。
1. 道路建設による自然環境・生活環境への影響調査・予測を行い、自然の保全を確認すること
2. 道路の必要性の根拠を市民に公開すること
3. 市民・住民に充分な説明をし、市民合意を図ること

以下この道路計画が抱えている問題点を指摘し、上記の理由を説明する。

1.自然環境・生活環境への影響調査・予測の不在

現代社会において、人々の生活が変化した結果、自然は著しく破壊され、人工の都市に住む人々が増えている。名古屋市は、年々、都市砂漠化が進行している大都会である。しかるに、人間は元々、自然と共生しつつ、生きてきたものであり、自然なくしては潤いのある生活はできない。都市計画において、自然の大切さ、自然をいかに保持するかは、名古屋市の基本計画にも明確に記述されている。しかし、道路建設によって約130haという、大都市に奇跡的に残された自然を破壊しようとすることの根拠は、未だ名古屋市からは市民に説明されていない。相生山緑地保全の重要性を一方で謳い、一方で自然を破壊する行政の矛盾を 私たちは認めることができない。日本最大級のヒメボタルの生息地とまで言われている相生山のヒメボタルの生息を危うくする道路建設を計画しながら、荒池緑地にホタルを養殖したり、失われたホタルを戻そうという計画は、矛盾そのものである。相生山緑地を保全することこそが、名古屋市の自然に対する基本姿勢にかなっていることである、私たちは考える。

a.親しまれている相生山
相生山には、散策に訪れる市民が後をたたない。四季折々、相生山緑地の植物も動物も昆虫も鳥も、市民を楽しませてくれている。自然との触れ合いの中で、多くの子どもは自然との共生を学んでいる。
名古屋市準絶滅種指定のヒメボタル、絶滅危惧種のオオタカの餌場、貴重な植物、等、相生山の自然の営みは営々と続けられてきたのに、ここで、緑地が分断され、相生山緑地の生態系が破壊されようとしている。道路計画・建設による生態系への影響、保水力への影響、通過車両による排ガスの生き物・人間への影響、騒音の影響等が十分予想されるのに、専門的・科学的調査がなされていない。未調査のままでは、自然・緑地の公益性を図ることはできないばかりか、市民の貴重な憩いの場所である緑地の破壊に繋がり、許されることではない。

b.「環境に配慮した道づくり専門家会」の欺瞞性
「変更理由書」の中で、「環境に配慮した道づくり専門家会」を設置し、「環境に配慮した道づくり専門家会提言書」を受けてとしている。しかし、この「専門家会」は、道路建設を前提にしたものであり、名古屋市が謳う「自然の保全」を図るものではない。第1回「専門家会」では、4人の専門家から、この道路建設に対しての危惧の意見が、生態系、水系、静けさ、ヒメボタル、地質そして道路の視点から出されていた。にも拘らず、これらの問題を検証するための専門的・科学的調査は行われなかった。「専門家会の設置要綱」によれば、「専門家会は、必要に応じ調査を行うことができる。」と明文化されているのにもかかわらずである。「専門家会」は、環境に配慮したとしているが、基本的調査もしなくて、なにをどのように配慮したと言えるのか? 名古屋市に配慮したというのであろうか? この提言書を受けて建設を進めようとする名古屋市の行為は、誤った自然保全の概念を市民・住民に植え付けることになる。

c.「環境に配慮した道づくり」施工ワーキングへの疑い
「環境に配慮した道づくり」施工ワーキングを平成15年度から活動をはじめ、市民・専門家・施工者が協働して環境に配慮した道づくりの手法を学ぶと「変更理由書」に述べられている。その設置要綱には「・・・施工にあたり、名古屋市と施工者の間にあって、市民・専門家協働のワークシステムを組み立て、効果的できめ細やかな環境管理を行い実施段階における環境に配慮した道づくりの実現を目的とする。」とあるが、今回の縦覧は、名古屋市都市計画道路の変更計画書(案)の段階である。
なぜ、先んじて「施工にあたり」なのか。なぜ、決まってはいない筈の施工者が参加しているのか。
また、市民は公募としているが、この公募資格では建設賛成者のみとし、反対者を排除している。しかも、設置要綱では、「ワーキングで知り得た秘密、情報を第三者に漏らし、譲渡し、又は貸与してはならない。」としている。市民・住民を置き去りにした行政の暴走である。
 そもそも、「環境に配慮した道づくりの実現」の内容は、計画・設計段階で検討されなければならない。「専門家会」で検討されるべき内容であったにも拘らず、名古屋市と専門家会はそれを怠ったのである。
この道路計画は貴重な都市に残された自然を破壊すると予見される事業であり、環境影響評価はなされるべきである。これを行わず、施工ワーキングを行うことで自然に配慮した道路建設を行うのだとするのは、本末転倒であり、税金の無駄遣いなどの疑いがある。

2.道路建設における公益性への疑い

公共事業は公益性があるからこそ、行われるものである。弥富ー相生山線の公益性とは何だろうか?名古屋市は当初「交通渋滞の解消」だと説明し、今になって「交通渋滞の緩和」だと言っている。しかし、その根拠は示されておらず、逆に、新たな渋滞が予測され、その影響も危惧されている。野並からの地下鉄の延伸、環状2号線の整備の施策のある中で、この道路は果たして必要なものかどうか、科学的に調査をして、公益性の裏づけを市民に明らかにする必要がある。それがないままでは、この道路の公益性を疑わざるをえない。

a.新たな渋滞の予測とその環境影響評価の必要性
「昭和高校前」の交差点はいまでも渋滞しており、この計画道路が出来れば、更なる渋滞はだれもが予測できる。さらに「久方」の交差点も渋滞する可能性が十分にあり、このことにより、通学路はより危険性が高まる。また、交通量増大に合せ排気ガス・騒音などの影響も考えられ、市民の安全で快適な生活への影響を調査する必要がある。「昭和高校前」〜「久方」交差点間の環境影響評価を行い、地域住民に説明し、合意を要するところである。

b.計画道路の延長にある相生緑道
相生緑道は、「久方」の交差点で当該計画道路に繋がる生活基盤道路である。将来、交通量が増えないだろうという予測のもとに、通過車両を減らす目的で造られている。この緑道と弥富ー相生線を繋ぐことは、矛盾である。緑道建設当時、地元からは緑道を相生山まで延長することが要求されており、地元では緑道の建設により、弥富ー相生山線の建設はなくなったのではと考えられていた。「交通渋滞緩和」のための道路と「通過車両を減らす」目的の緑道が繋がることは、交通渋滞緩和という観点からすれば、あるまじき計画である。緑道から相生山への散策路として、緑道が相生山緑地まで延びることこそ、市民にとっての潤いのある街づくりになる。
3.合意形成について

行政は、真に市民の生活を豊かにするために存在しなければならない。多くの住民・市民の道路建設反対の声がある中で、その声に応えるべき根拠を示し、市民・住民が参加できる場の機会を設け、充分な説明をして市民合意を図ることは、行政の義務である。

a.形式としての説明会
然るに名古屋市は形式としてのみ、説明会を開き、市民に十分な科学的根拠のある説明をしないばかりか、市民の発言の場所も殆ど与えていない。それどころか、昨年11月末に行われた「説明会」で、出席者一部によるごく少数のアンケートを「地元意見」としてまとめてしまったのである。これでは合意形成とは程遠く、市民・住民不在そのものである。

b.未来の子どもたちとの合意
元々、この都市計画道路が計画されたのは約半世紀前のことである。当時の天白区は草が生い茂る田舎であった。今日のような天白区は想像されることもなかった。生活様式も変わった。ここまで車社会が発達し、自然が破壊され、都市砂漠が深刻化すると、予見されていただろうか。環境の変化により、市民の生活に何が必要であり、何が大切であるかということも変化する。子どもたちの未来に、索漠たる環境を残してはならない。私たちは、豊かな自然を、未来の大人である、子どもたちから一時的に借りているのだ。大人の義務は子どもたちに、先祖から渡された自然を豊かなままに手渡すことである。


以上、「3・5・79弥富相生山線」の抜本的見直しを強く要望する。


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